共同正犯・間接正犯

事案

 債務者Cは、暴力団の役員Aより1000万円を借り受けており、無利息で1年後に返済予定であったが、返済期限は半年前に過ぎていた。AはCに対して、何度も催促の電話をしていたが、2ヶ月を過ぎた頃から電話に出なくなった。その後、AはCはに対して何度も内容証明郵便を送っていたが、音信不通は続いた。そして、役員Aは、部下Bに対して債務者Cから1000万円を手段を問わず取り戻してくるよう命令し、債務者Cの自宅の住所をBに伝えた。部下Bは、最初躊躇を示したものの上司からの命令を聞き入れ、部下Bは、Cの玄関前で待機し、C宅の扉が開いた瞬間にCの家の中に押し入った。抵抗するCを押さえつけ、後頭部を多数回素手で殴打した。Cは意識が朦朧となったところで、BはCの家にある金品を物色し、1200万円相当の金品を回収した。BはCを後に、当該金品をAに手渡したが、Cはその頃死亡した。AおよびBは本件でどのような罪に問われるか。

答案

 Bの行為は、恐喝罪(刑法249条)にあたるか、それとも強盗罪(刑法236条)にあたるか。

(恐喝) 第249条
 人を恐喝して財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

(強盗) 第236条
 暴行又は脅迫を用いて他人の財物を強取した者は、強盗の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。
 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

 恐喝罪は、暴行または脅迫(害悪の告知)を用いて相手方をその犯行を抑圧するに至らない程度に畏怖させ、財物・財産上の利益の交付を要求するが、本件は、抵抗するCを押さえつけて相手の交付なく強取している点で、犯行を抑圧する程度であると言える。よって強盗罪が成立する。ところで、本件の強盗行為に至る条件関係を辿れば、債務者Cが債務の返済について不誠実な態度を取り続けていた状況であるが、このような事情は違法性阻却事由にあたるか。最高裁は、たとえ債権の範囲内でも、「その方法が社会通念上一般に忍容すべきものと認められる程度を逸脱したとき」には、違法性阻却事由には当てはまらないとしている。またBは債権を超える額を強取しており、このような場合、最高裁は「債権額を控除しない」としている。よって、Bは、社会通念上一般に忍容される程度を逸脱し、強盗を行っているという点で、1200万円の全額について強盗罪が成立する。そして、Bの殴打と時間の経過によって死亡している。Cの死因は、Bの行為の危険性が結果として現実化したといえるため法的因果関係が認められる。よって、Bは強盗罪の結果的加重類型である強盗致死傷罪が認められる。

(強盗致死傷) 第240条 強盗が、人を負傷させたときは無期又は六年以上の懲役に処し、死亡させたときは死刑又は無期懲役に処する。

 Bは、強盗致死傷罪以外に住居侵入罪(刑法130条)に当てはまるか。Bは、Cの承諾なく、またCの意思に基づかない目的で体の全部をCの占有する敷地内に入れているため、住居侵入等罪にあたる。

(住居侵入等) 第130条 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の懲役又は十万円以下の罰金に処する。

 次に、争点となり得るのはAおよびBの違法性についてである。AはBに対して手段を問わず取り戻してくるよう命令し、Cの住所をBに伝えているのみで、実行行為には一切加わっていない。Aは、教唆犯にあたるか、間接正犯にあたるか、それとも共謀共同正犯にあたるか。またAとBは会社内で支配関係にあることを考慮に入れれば、Bの違法性は阻却されるか。Bは、Aからの命令に対して躊躇を示している点で、規範に直面し反対動機の形成が可能であったと言える。それにも関わらず、あえて当該実行行為に至っている点で故意性が認められる。よって、Bの違法性は阻却されず、Aは間接正犯にならない。また、Aは本件を画策しているからAは本件の首謀者である言える。AB間には実行行為に係る相互利用補充関係は認められないが、実行行為外では相互利用補充関係にあり、結果に対して物理的・心理的因果性が認められる。よって、共謀の事実一部の者による共謀に基づく実行行為および共謀者の正犯意思が認められるので、Aは共謀共同正犯と言え、刑法60条の一部実行全部責任の原則によってBと同等の責任を有し、強盗致死傷罪および住居侵入等罪で処罰される。

(共同正犯) 第60条 二人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。

メモ

① 量刑の検討

 AとBは支配関係にあるところ、違法性阻却事由に当たらないとしても減刑の理由にはなり得るように思う。答案では量刑まで書くのだろうか。(答案例見ろよ)

(酌量減軽) 第66条 犯罪の情状に酌量すべきものがあるときは、その刑を減軽することができる。

② 答案構成

 答案構成で意識すべきことは、下記の通り順で記述する。

  構成要件該当性の検討
     ↓
  違法性の検討
     ↓
  有責性の検討

 共犯は、違法性の検討部分で書くのだろうか。(答案例見ろよ)

③債権の行方

 AB間でなされた当該債権回収の契約は民法90条により無効となる。最高裁も「債権額を控除しない」で1200万円の全額を強盗致死罪の対象とするが、Aの債権はどうなるのだろうか。Cの相続人は、当該債務も相続するのだろうか。(Cの相続人は、民法709条(不法行為責任)に基づく損害賠償と当該債務を相殺することになるのか。)

(公序良俗) 第90条 公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。

(不法行為による損害賠償) 第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

④相互利用補充関係の定義

 答案では共同正犯として結論を出したが、実際のところどうなんだろう。共同正犯の処罰根拠としては、相互利用補充関係の有無が第一にあがる。本件では、AはBを利用しているが、Bは実質的にはAを利用していない。例えば、回収した額から一定の割合の中間マージンを抜いているのであれば、利用していると言えそう。心理的因果性は確かに認められるかもしれないけど、その因果性はBからしてみれば不都合な因果関係であって、利用しているとは言い難い。暴力団の内規は分からないが、例えば命令絶対の部分社会が形成されていたと推認するのであれば、Aは間接正犯であってAはBの意思を抑圧しBは道具として一方的に利用したと解するのが妥当ではないだろうか。その場合、AはBに対して強要をしたと言える訳だからAB間における強要罪が問題となるが…

(強要)第223条
 生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、三年以下の懲役に処する。
 親族の生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者も、前項と同様とする。
 前二項の罪の未遂は、罰する。

いや、無理か。AはBに対して害を加える旨を告知して脅迫もしてなければ、暴行も用いていない。仮に無言の圧力があったとしても強要罪の成立要件は満たさないか。

⑤正犯意思の有無

 一方で、AはBに対して「手段を問わず」と命令しているものの、強盗致死までは予見していない可能性が認められる。だとすると、共同正犯は成立するが当該実行行為を共謀したとは言えない。正犯行為が欠けていると認められれば、教唆犯または幇助犯としての取り扱いが妥当である。

正犯意思の判断は

  • 利害関係
  • 影響力
  • 利益の分配の有無および割合
  • 実行担当者となりうる可能性
  • 実行行為に必要かつ密接な行為

である。Bが当該正犯行為をしなかった時、Aは実行担当者となりうる可能性は考えられるが、その場合社会通念上一般に忍容される程度を逸脱しない程度の恐喝行為(無罪)で済んだ可能性も否定できない。