刑法の答案構成

犯罪は、①構成要件に該当し、②違法性阻却事由の不存在および③有責性阻却事由の不存在によって成立するため、その順で記述しなければならない。①を満たさなければ②を検討する必要はないし、③についても同様である。


①構成要件該当性の検討

 実行行為と結果発生の条件関係および法的因果関係が認められ、故意性が認められ、更に当該実行行為が特定の構成要件に抵触した時、構成要件該当性を満たす。

<問題提起>

因果関係の検討・故意の検討・構成要件の検討

<判断基準>

因果関係の検討:実行行為の危険性が結果として現実化した(法的因果関係の判断基準)と認められるか否か。

故意性の検討:故意とは犯罪事実の認識・認容であり、その本質は規範に直面し反対動機の形成が可能であったにも関わらず、あえてその行為に及んだことに対する強い道義的非難が認められるか否か。

<結論>

したがって実行行為と結果には、法的因果関係が認められる。

②違法性阻却事由の検討

<問題提起>

行為者の実行行為に違法性阻却事由(正当行為・緊急避難または正当防衛)が認められるか。

<判断基準>

正当行為

法令上(または慣習上)承認された社会的活動の範囲内で、その活動の際に遵守を求められる社会的行動準則を守って行われた行為であるか。(例:ボクシングなど)

(正当行為)第35条
法令又は正当な業務による行為は、罰しない。

緊急避難(正vs正)

緊急の事態で、警察官などの国家機関による権利保護の時間的余裕のないところで、私人がその正当な権利の保全のため例外的な実力行使を行うこと。保全法益と被侵害法益の間に法益均衡が取れているか。実行行為が、法益保全のための最後の手段として行われているか。端的に言い換えれば、法益均衡と補充性を満たす必要がある。(法益権衡の原則・補充の原則)(例:火災に巻き込まれ、窓ガラスを割って逃げるなど)

(緊急避難)第37条
 自己又は他人の生命、身体、自由又は財産に対する現在の危難を避けるため、やむを得ずにした行為は、これによって生じた害が避けようとした害の程度を超えなかった場合に限り、罰しない。ただし、その程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。
2 前項の規定は、業務上特別の義務がある者には、適用しない。

正当防衛(正vs不正)

緊急の事態で、警察官などの国家機関による権利保護の時間的余裕のないところで、私人がその正当な権利の保全のため例外的な実力行使を行うこと。法益均衡と補充性は不要だが、以下の4要件が必要となる。
① 急迫不正の侵害があること
② 防衛の意思があること
③ 防衛の必要性があること
④ 防衛行為に相当性があること

(正当防衛)第36条
急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。
防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

自救行為

①権利に対する違法な侵害が生じ、②権利侵害から回復する緊急の必要性があり、③回復行為tろして相当性が認められる場合に、権利を侵害された者が社会的に相当と認められる範囲の方法によって自力でその権利を回復すること。(法益権衡の原則・補充の原則)(例:盗まれた財物を偶然見つけて、自力で取り返す行為)

しかし現在これを認めた条文は存在せず、むしろ民法200条(占有回収の訴え)を文字通り理解すれば自力救済は認められない。よって、これは超法規的な違法性阻却事由であると解されている。

(占有回収の訴え)第200条
 占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。
 占有回収の訴えは、占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができない。ただし、その承継人が侵奪の事実を知っていたときは、この限りでない。

<結論>

したがって、当該被疑者の実行行為には違法性阻却事由が認められる。/ 認められない。

③有責性阻却事由の検討

<問題提起>

行為者は当該実行行為について、その行為の責任能力を有するか。

<判断基準>

当該実行行為が行為者の有効な意思形成に基づいて行われていない場合は、非難することができない。制限故意説によれば、違法性の意識は不要とした上で、違法性の意識の可能性の有無が必要。規範に無関心な人格態度という点で同様の非難が可能であるが、違法性の意識の可能性すらない場合には非難できない。

(心神喪失及び心神耗弱)第39条
心神喪失者の行為は、罰しない。
心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する。

(責任年齢)第41条
十四歳に満たない者の行為は、罰しない。


したがって、当該行為者は特的の構成要件を満たし、違法性阻却事由および有責性阻却事由が認められないため〇〇罪が成立する。

メモ

 共犯についての検討はどこで行うべきなのだろうか。