失踪宣告の取消(財産)

事例

 甲土地を有しているAは、世界一周旅行中に乗っていた船が沈没し行方不明になってしまった。Aの妻Bは、Aと連絡が取れず1年が経過したため難波事故によってAは死んだと思い込み、家庭裁判所に失踪宣告を申し出、甲土地を相続した。そして、Bは甲土地を善意の第三者Cに売却し、更にCは甲土地を更に悪意の第三者D(転得者)に対し甲土地を売却した。船が沈没してから3年余りが経過し日本に帰国したAは、家庭裁判所に失踪宣告の取消しを申し出た。Aは甲土地について失踪宣告の取消によってDに対し返還請求できるか。

答案

 妻Bが行った失踪宣告および甲土地に係る相続は有効か。妻BはAの難波事故から1年間に渡りAと連絡が取れていないことから、妻BはAが死んだと判断するには十分な理由であるし、民法30条2項は沈没した船舶の中に在った者が、一年間明らかでないときは、失踪宣告ができるとしている。したがって妻Bの失踪宣告は民法30条2項に従い有効であり、甲土地に係る相続もまた有効である。(民法31条)

(失の宣告)第30条
 不在者の生死が七年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失そうの宣告をすることができる。
 戦地に臨んだ者、沈没した船舶の中に在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ、戦争がんだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後一年間明らかでないときも、前項と同様とする。

(失踪の宣告の効力)第31条 前条第一項の規定により失踪の宣告を受けた者は同項の期間が満了した時に、同条第二項の規定により失踪の宣告を受けた者はその危難が去った時に、死亡したものとみなす。

 Aの失踪宣告を取消しの請求は有効であるか。民法32条1項は失踪宣告の取消しについて「家庭裁判所は、本人又は利害関係者の請求により、失踪の宣告を取り消さなければならない。」と規定している。したがって、Aは本人であるところ失踪宣告の取消しを請求しうる。失踪宣告の取消しをすると遡及効の原則に基づいて、過去に遡って最初から取消しとなる。(703条)

(失踪の宣告の取消し)第32条
 失踪者が生存すること又は前条に規定する時と異なる時に死亡したことの証明があったときは、家庭裁判所は、本人又は利害関係人の請求により、失踪の宣告を取り消さなければならない。この場合において、その取消しは、失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない。
 失踪の宣告によって財産を得た者は、その取消しによって権利を失う。ただし、現に利益を受けている限度においてのみ、その財産を返還する義務を負う。

(不当利得の返還義務)第703条 法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。

(悪意の受益者の返還義務等)第704条 悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。

 BC間で行われた甲土地の売買契約は有効であるか。また、AはBおよびC対して甲土地の返還を請求し得るか。BおよびCは、双方善意である。したがって、外観保護および善意者保護の規定に則り、BC間の売買契約は有効であり、AはCに対して甲土地の返還を請求することはできない。しかし、直接取得者Bは外観保護の範囲ではないためAはBに対して甲土地の返還を請求することができる。もちろん、この時点で甲土地はCに財産権移転されていて、Bは甲土地それ自体を返還することはできない。よって、Bは現に利益を受けている限度(現存利益)においてのみ、Aに対してその財産を返還する義務を負う。(民法32条2項)

現存利益とは
 財産を遊興費で浪費してしまった場合にはその浪費分を差し引いた残額が現存利益である。 ただし財産を生活費に消費した場合や、財産で借金を返済した場合には、それにより自分の財産の減少を免れているので、生活費や借金返済を差し引かない金額が現存利益となる。

 CD間で行われた甲土地の売買契約は有効であるか。また、AはDに対して甲土地の返還を請求し得るか。転得者Dは悪意である。善意者保護の規定の則れば、Dはその保護範囲ではないが、BC間の売買契約は既に有効になっている。民法は、法律関係の早期安定と簡明さを目的として絶対的構成の立場を取っている。したがって、BC間の売買契約が有効となっているため、その後の取引は善意・悪意を問わず契約は有効であり、AはDに対して甲土地の返還を請求することができない。