34 錯誤

Case34

佐久間『民法の基礎』148頁

担当:証

事例

 GがZから土地を購入した。Gは、その代金の支払のために必要である旨をH銀行の担当者に話して、定期預金を解約し、かつ、その払戻金をZの口座に送金するようHに依頼した。その後、GとZの間の売買契約が無効であったことがわかった。

1号取消と2号取消の判断基準

 表示行為と効果意思が一致しない場合には、95条1項1号

 表示行為と効果意思が一致する場合には、同条同項2号

答案例

1 GはHに対して、定期預金の解約およびZへの支払いに関する依頼について錯誤取消し(95条1項2号)できるか。

2 かかる取消権の要件は、①意思表示が「錯誤に基づくもの」であること(主観的因果性、95条1項柱書)・②その「錯誤が法律行為の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものである」こと(客観的重大性、95条1項柱書)・③「錯誤が表意者の重大な過失によるもの」でないとき(95条3項柱書)及び④「その事情が法律行為の基礎とされていることが表示されていたとき」(95条2項)である。

  •  Gは、GZ間の売買契約(555条)が無効であると知っていたら、Hに対して定期預金を解約してZへの送金を依頼することはしないはずであるから、表意者が錯誤に陥らなければ、その意思表示をしなかったといえ、①を充足する。
  •  土地購入の契約の無効を知っていたならば、Gだけでなく誰であっても、定期預金を解約して売買の相手方への送金を依頼することはしないはずであるから、通常一般人ならばその錯誤がなければ意思表示をしなかったといえ、②を充たす。
  •  売買契約の無効原因については明らかではないが、土地の売買契約についてGが土地の売買に精通している職業にあるなどの特段の事情がない限り、「重大な過失」は認められない。
  • <論点:発展(156~158頁以下)>

ア 基礎事情の表示について、判例は「動機が表示されて意思表示の内容または法律行為の内容になった」ことが必要であるとすると一般に説明されている(表示重視説)。たしかに、このような表示重視説に立てば、動機が表示されている場合に、相手方は当該動機を知ることができ、これを法的に考慮しても相手方の信頼を害する程度が低くなるために、錯誤取消しが認められるようにも思える。しかし、本問のような場合には、定期預金解約とその払戻金の送金依頼についてその動機を相手方に伝えている場合と伝えていない場合とで、Hの信頼を害される程度が異ならない。なぜなら、Hには、Gの動機を知ったとしても、その真偽を知る術も、それが誤りである場合に対応する術もないからである。

そこで、動機の錯誤取消しを認めるためには、単に表意者が動機を黙示的又は明示的に表示しただけではたりず、その動機がなければその内容でその意思表示または法律行為はされないとすることについての相手方の同意を必要とする内容化重視説に立つべきと解される。

イ 本問で、Hは相手方の表示内容について、その動機の内容について同意をしていない。

ウ よって、動機を表示したとは認められず、④を欠く。

  •  以上より、Gは④の要件を欠き、錯誤取消しが認められない。

 (判例の立場なら、認められることに注意。)

以上

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