過失と共同正犯

事案

 AとBは同期の仕事の仲間であり、両名は仕事中、共同でバナーを用い溶接作業を行っていた。しかし、AまたはBの過失によって失火を起こしてしまい建造物を燃やした。失火の原因は、AとBのいずれかの過失であることは間違いないが、どちらが原因か分からない。AとBは、刑法117条の2(業務上失火法)の罪に問われるか。

(業務上失火等)第117条の2 第百十六条又は前条第一項の行為が業務上必要な注意を怠ったことによるとき、又は重大な過失によるときは、三年以下の禁錮又は百五十万円以下の罰金に処する。

私なりの答案

 刑法117条の2の構成要件は①建造物、汽車、電車、艦船、鉱坑のいずれかを②客観的結果回避義務違反によって③失火させることである。AまたはBはいずれの構成要件も満たすため、業務上失火等罪に該当する現実的危険性を有する行為をしたと言える。ここで問題となるのは、AまたはBのどちらが失火を惹起したのかが不明な点である。AおよびBはどちらも過失であって、本件建造物に失火させる故意は認められないが、AおよびBは相互利用補充関係にあり、相互の監視義務を負う。例えば、AまたはBに上下関係が認められる場合には、相互に監視義務を負わないが、両名に上下関係は認められず同一の法的地位を有する。したがって、AおよびBは相互の監視義務違反を犯し、客観的結果回避義務を怠ったことにより共同正犯として双方に業務上失火等罪が認められる。

メモ

①反対解釈

「過失犯に共同正犯が認められるか」といった本件について、本質を無意識的部分にあるのだとすれば、共同で罪を犯す意識はないのだから、共同正犯にはあたらず、無罪を主張できる。学説としては、こちらを支持している人も少なくないが、判例は「意識」に注目するのではなく、「行動」に注目し相互の監視義務を必要としている。

 共同正犯の処罰根拠である「相互利用補充関係の下、結果に対して物理的・心理的因果性を及ぼしている点」に立ち返って検討すれば自然と導き出せる。

②無罪推定の原則は?

 無罪推定の原則を無視していないか?「米兵ひき逃げ事件」を参考にすれば、A・Bはいずれも無罪推定の原則により、処罰されないように思えるが…