事案
AはB,C,Dと賭け麻雀を行い、その結果多額の負債を負った。Aは、当該負債を弁済する責任を負うか。
私なりの答案
金銭を対象とした賭け麻雀は契約自由の原則に反しないか。民法521条は意思自治の原則に則り、契約の締結及び内容の自由を保障しており、民法521条によって成立した契約には約定債権が発生する。
第521条(契約の締結及び内容の自由)
1 何人も、法令に特別の定めがある場合を除き、契約をするかどうかを自由に決定することができる。
2 契約の当事者は、法令の制限内において、契約の内容を自由に決定することができる。
しかし、賭け麻雀は刑法185条の賭博罪にあたるため、民法521条1項が定める「法令に特別の定めがある場合」に該当し、同法2項の「法令の制限内」の法律行為とは認められない。したがって、金銭を対象とした賭け麻雀は契約自由の原則に反し、約定債権は発生しない。
(賭博)第185条
賭博をした者は、五十万円以下の罰金又は科料に処する。ただし、一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない。
民法90条は、「公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。」と規定している。更に民法90条は「遡及効」を持ち、民法90条に該当する法律行為は最初から無効であったといえる。金銭を対象とした賭け麻雀は、民法90条によって当該契約は最初から無効となる。
(公序良俗)第90条
公の秩序又は善良の風俗に反する法律行為は、無効とする。
したがって、相談者Aは当該負債を弁済する責任はなく、仮にこれまでに弁済をしたものがあった場合は、既に支払った額の返済を申し立てることができる。
メモ
本筋とは逸れますが、刑法185条の但書きの範囲が不明確なことに疑問を感じます。一時の娯楽に供する物とは、少額ですぐに消費するような物だと考えられていますが、一方でパチンコもこれによって肯定されているといった説もあります。社会問題としては、パチンコやスロットの方が大きな問題であると感じるのは私だけではないはず…また、黒川元東京高検検事長がマスコミの関係者らと共に賭け麻雀を行ったことが発覚し非常に大きなニュースになったことも記憶に新しいです。勿論、賭け麻雀のレートなど賭け金をあまりに法外なレートにすることは公の秩序及び善良の風俗に反する行為であり、これを契機として別の犯罪に繋がってしまうことが懸念できるため賭博罪の規定は必要と言えます。しかし、罪刑法定主義(憲法31条)の要請が強い刑法においては、当該賭博罪の但書きの範囲をより明確化することが必要に感じます。