離婚時の財産分与

事案

 相談者Aは、現在の夫Bと25年間の婚姻状態にあるが、ABは性格の不一致により協議によって婚姻契約を解消しようとしている。そこで問題となるのは、Aはこれまで専業主婦をしており、働いてこなかったため、離婚後の経済的な不安が大きい。なお、AB間に子はいないものとする。

私なりの答案

 民法755条は、夫婦の財産関係について別段の契約をしているときは、当該契約を優先するとあるが、相談者Aは夫Bとの婚姻契約前にそのような取り決めはしていないものとしてまとめる。

(夫婦の財産関係)第755条 夫婦が、婚姻の届出前に、その財産について別段の契約をしなかったときは、その財産関係は、次款に定めるところによる。

 離婚は共同生活の営みを解消することであり、当該婚姻の解消にあたり一方のみが社会的、経済的および精神的に過度な負担を負わないよう十分に配慮がなされた上で行われるべきである。その為には、経済生活の清算が必要となり、この時、離婚をした者の一方が、相手方に対して財産の分与を請求する(768条1項)ことによって目的を達成する。財産の分与の内容は、当事者間の協議で取り決めることができるが、当該協議では合意が成立しなかった場合には、家庭裁判所に対して、協議に代わる処分(審判)を請求することができる。(768条2項)なお、原則、家庭裁判所の審判に先立って調停が行われる。(調停前置主義)よって、相談者はAは夫Bに対して民法768条に基づき財産分与を請求することができる。

(財産分与)第768条 
1 協議上の離婚をした者の一方は、相手方に対して財産の分与を請求することができる。
 前項の規定による財産の分与について、当事者間に協議が調わないとき、又は協議をすることができないときは、当事者は、家庭裁判所に対して協議に代わる処分を請求することができる。ただし、離婚の時から二年を経過したときは、この限りでない。
 前項の場合には、家庭裁判所は、当事者双方がその協力によって得た財産の額その他一切の事情を考慮して、分与をさせるべきかどうか並びに分与の額及び方法を定める。

 また、離婚に伴う財産分与には一般的に、①清算的機能②扶養的機能および③慰謝料的機能が含まれている。清算的機能とは、夫婦が婚姻中に協力して築き上げた財産を財産分与によって清算する(768条3項)こと指す。ここでいう「夫婦が婚姻中に協力して築き上げた財産」の範囲は特有財産(762条1項)および762条2項に掲げるものである。相談者は25年間専業主婦として直接的には経済活動を行っていないと思えるが、間接的に夫の経済活動を扶助してきた。よって、夫が将来受け取れるであろう退職金について相談者Aは婚姻契約期間分(25年間分)を夫Bの折半分を請求し得る。

(夫婦間における財産の帰属)第762条
1 夫婦の一方が婚姻前から有する財産及び婚姻中自己の名で得た財産は、その特有財産(夫婦の一方が単独で有する財産をいう。)とする。
 夫婦のいずれに属するか明らかでない財産は、その共有に属するものと推定する。

 扶養的機能とは、離婚によって生活が困窮してしまう配偶者の扶養を財産分与によって実現することをいう。相談者Aが離婚によって生活が困窮してしまう可能性が高い場合は、これについても請求し得ると言える。

 慰謝料的機能とは709条に基づく有責配偶者への慰謝料請求権を当該財産分与請求に含めることによって、当該被害者の損害賠償(417条)を実現するものである。裁判所は財産分与の決定に際して、これらの一切の事情を考慮して財産分与の額・方式を定めている。相談者Aと夫Bの離婚原因はお互いの性格の不一致であって、夫Bの有責行為に基づくものでないとすると709条を検討する余地はない。

(不法行為による損害賠償)第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

(損害賠償の方法)第417条 損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定める。

メモ

 私の周りでも多くの人が結婚し、離婚している。世間では婚姻率の低下ばかりが取りざたされているようにも思えるが、離婚率の上昇についても注意をしておきたい。

参考

内閣府「婚姻率、離婚率の推移」https://www8.cao.go.jp/shoushi/shoushika/whitepaper/measures/w-2004/html_h/html/g3380000.html